ウスマン・デンベレ:PSG移籍実現ならバルセロナにとって有益に

Ousmane Dembele Barcelona GFX
GOAL
フランス代表FWデンベレの才能は文句のつけようがないが、一方で問題視される行動も…。

『ムンド・デポルティーボ』と『スポルト』は、ウスマン・デンベレをめぐってバルセロナとパリ・サンジェルマン(PSG)が「戦争」をしていると報じた。これには少々違和感を覚える。というのも、デンベレは少なくともバルサにとってもはや争う価値のある選手ではないからだ。

もちろん、PSGが彼に関心を示すのは理解できる。デンベレはとてつもない才能を持った選手だ。PSGに体調万全でやる気のある状態で入れば、ルイス・エンリケ監督にとって間違いなく戦力となるだろう。

もちろん、デンベレの確信犯的な裏切りに怒りを感じているブラウグラナ・ファンもいる。ファンの大多数は、デンベレがカンプ・ノウに来てからの6年間、このウイングの味方であろうと必死に努力してきたのだから。PSGと個人的な条件についてすでに同意しているという事実だけでも最悪だ。チームへの忠誠心が足りないと批判されるのも仕方ないだろう。

  1. 「あの若者は特別だ」
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    「あの若者は特別だ」

    デンベレの才能はずっと前から明らかだった。レンヌの元スポーツ・ディレクター、ミカエル・シルヴェストルは、「デンベレは最高の選手だ」と言ったことがある。また、トーマス・トゥヘルは、ボルシア・ドルトムントで練習していた時にデンベレの「素晴らしい技術」を間近で見られて楽しかったと語り、マルティン・ブライトバイテは2020年にバルセロナに加入したとき、デンベレに衝撃を受けたことを明かしている。

    「彼のような才能の持ち主を見たことがない。本当だよ!メッシも特別だけど、メッシ以降、デンベレのような選手は見たことがない。あの若者は特別だ」

    しかし、デンベレは、プロとしてあるまじき態度や移り気すぎるところも見せてきている。

  2. 「彼にはちゃんとしたところがない」
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    「彼にはちゃんとしたところがない」

    デンベレの行動への懸念は当初1億500万ユーロでドルトムントからバルセロナへ移籍する以前からあった。ドイツでユルゲン・クロップから借りていた部屋がゴミだらけだと批判されていたのだ。

    他にも、バルサの元会長ジョゼップ・マリア・バルトメウが、デンベレは事実上入れ替わりとなったネイマールよりも優れていると公言したにもかかわらず、クラブは2018年10月には早くもデンベレに関する損失を減らすことを真剣に考えていたことも覚えておく価値があるだろう。

    この点において、デンベレには恐ろしいほど自制心がないことは明らかだ。チームのミーティングに繰り返し遅刻するが、その理由は早朝までゲームをやり続けてしまうからだ。食事もプロのアスリートとしてはお粗末なもので、ある情報筋が『GOAL』に語ったところによると、彼の自宅はファストフードのゴミであふれており、元シェフが作ったヘルシーな魚料理は手つかずで捨てられていたという。

    関係者『パリジャン』で「ひどい生活だよ。休息期間というものをまったく大切にしていない。彼にはちゃんとしたところがない」と語っており、デンベレが何度も筋肉系のケガに襲われたのは、そんなライフスタイルが主な原因ではないかとみられていた。

  3. 「今ほどハードワークしていなかった」
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    「今ほどハードワークしていなかった」

    デンベレ本人でさえ、バルセロナにいた最初の数シーズンに「体が非常にもろかった」のは悲惨な食生活のせいだと認めている。2022年には自身のやり方が間違っていたことを認め、考え方を根本から変えたと言っていた。

    「今の自分は、ピッチの中でも外でもハードワークすることが大事だと理解している。20歳の頃は今ほどハードワークしていなかったからケガが多かったんだ。一生懸命やらなければサッカーを楽しめないし、たくさんプレーしないと、ケガをするのは明らかだ。今の自分は前より強くなった」

    だが、実際にはそうではなかった。ある意味では。デンベレは昨シーズン、ハムストリングスの故障で3カ月を棒に振った。プレーできていた時でさえ、単発的にしか活躍できず、ラ・リーガに25試合出場してたったの5得点に終わっている。

    2022年のワールドカップではフランス代表のレギュラーの一人だった。天才的で息をのむような爆発的なスピードで、何人ものDFを置き去りにしつつも、十分な結果が伴わなかった。チームは決勝に進出したが、デンベレは2アシストで得点なし。決勝戦でも低調で、ディディエ・デシャン監督はハーフタイムに入る4分前にデンベレを交代させている。

  4. デンベレかエンバペか

    デンベレかエンバペか

    エンバペの逆サイドでの効果的で質の高いプレーに比べると、それは悲惨なものだった。そして、バルセロナにとってそれは非常に痛々しい事実であった。代理人のジュニオール・ミンゲジャによると、ネイマールと同じ年の夏にPSGへ移籍する前、バルサは1億5500万ユーロでエンバペと契約するはずだったのに、最終的にデンベレを「エンバペよりもチームのプレースタイルに合う選手」だと決めたのだという。

    ミンゲジャは2021年2月にラジオ・マルカでこの話を語ったが不信感が広がり、その後自身の話を正当化すべく、WhatsAppのメッセージを作成して「嫌悪する者、信じない者への贈り物」というツイートをしたのであった。

  5. 「デンベレは特別扱いに値する」
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    「デンベレは特別扱いに値する」

    真実がどうであれ、デンベレがバルセロナにとって災難であることは単純に言って否定できない。バルトメウは在任期間中、フィリペ・コウチーニョやアントワーヌ・グリーズマンなどのお粗末な獲得交渉を繰り返したが、いずれもこれほどフラストレーションの溜まるものではなかった。

    しかもバルサはさまざまな手を尽くしたのに、事態を好転させられなかった。バルトメウの後任のジョアン・ラポルタは繰り返し公の場でデンベレを擁護し、「デンベレは特別扱いに値する。これほどの天才タイプの選手は、面倒をみてやらなければならない」と主張した。

    だがデンベレは、自分で自分の面倒すら見られないことを証明するばかりだった。移籍からずっと、バルサが彼に投資してきた金額や努力に報いるようなことをしていない。だから、エンバペを獲得するためにデンベレを利用しようとして、6年前に犯した巨大な判断ミスを改めようとしたとしても、まったく驚くべきことではないのだ。

  6. デンベレはバルサにいない方がいい
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    デンベレはバルサにいない方がいい

    だがある意味では、デンベレが退団する方がこれまでのドラマのすべての幕切れにふさわしいと言える。カンプ・ノウでのデンベレのキャリアは全体的に失望でしかなかった。

    バルサでのデンベレのイメージの一つは、疲れ切ったリオネル・メッシを地面から立ち上がらせようとしている姿だ。2019年、チャンピオンズリーグでリヴァプールと戦ったバルサは、ファーストレグの試合終了直前にメッシがデンベレに絶好のお膳立てをした。あの時デンベレがゴールを決めていたら、ユルゲン・クロップ率いる「メンタルお化け」たちであったとしても、アンフィールドでの逆転は不可能だったと信じられている。その後の不名誉なセカンドレグでの大敗の責任は、デンベレ一人が負うようなものでないことは明らかだが、それでもあのミスはデンベレのバルサでのキャリアを見事に要約したものとなっている。

    デンベレがバルセロナでスーパースターになるためのすべては整っていた。そうならなかったのは、すべて本人の責任である。自分でも、昨年の9月にプロ意識の欠けた行動で人生の「5年間を無駄にした」と認めている。少なくとも自業自得だという意識はあるということだ。だが、そんな自分の無作法を改善する最後のチャンスを無駄にもしている。バルサのファンは、良い時も悪い時も応援し続けてきた選手が、ライバルクラブのひとつに入る姿を見たくないと思っているだろう。

    しかし、デンベレが出ていくことは不幸に見えて実は有益なことなのだ。バルサには、PSGからできるだけ多くのカネを引き出すために戦う権利があることは明らかだ。

    単純に言って、彼は頼れる選手ではなかった。そういうキャラクターではなかったのだ。おそらく、パリで遅ればせながら自分の才能を開花させるだろうが、PSGの問題児になる可能性も高いと言えるだろう。バルサのサポーターは、彼がいないほうが良いチームになるということに気づくべきである。