ネイマールがPSGで迎える新しい夜明け。メッシとエンバペ退団でクラブの顔に

Neymar Hope
31歳のネイマールは今夏にパルク・デ・プランスを去るつもりだったが、他の選手たちが去っていく中で活躍のチャンスが生まれるかもしれない。

7月初旬、パリ・サンジェルマン監督就任が発表されたルイス・エンリケはネイマールについて言葉を選んだ。他国への移籍が取りざたされていた当時、新監督はネイマールがクラブに残るかどうか名言を避けたのだ。シーズンが始まるまで、どんなチームになるか自分でもわからないと認めたのである。

それでもPSGはネイマールを欲していたかもしれない。キリアン・エンバペは契約を延長する気はないと発表し、PSGの選手でいる時間は終わりを告げつつあるように見える。リオネル・メッシはすでに出て行った。フロリダでの休日が伸びたことで、GOATはヨーロッパから誘い出されたのである。

そして、ネイマールだけが残る。ひどい中傷を受けつづけていたスーパースター・トリオのオリジナル・メンバーが再び一人きりとなる可能性がある。振り返ってみれば、すべてがまったくうまくいかなかった。それも、かなり早い段階から。他のビッグネームが加入するにつれて、ネイマールの影響力と評判は衰えていった。自分ではどうしようもない、足首や中足骨、内転筋のケガという要因もあったが、どんちゃん騒ぎのパーティーや勝手きままな休暇をといった、自業自得の面もあった。

PSGに加入して5年。少なくともネイマールというエリート・サッカー選手にとって、無駄な時間だったように思われる。彼がパリにやってきたのは、個人的な栄光のためだった。ネイマールはチームを走らせ、願わくはバロンドールを獲得したかったのだ。ピッチ上での成功、特にチャンピオンズリーグ制覇は、彼の中の優先順位としては僅差の2番目だったろう。

だが、今はリセットの時だ。ネイマールはまたしても主役になるチャンスを得た。しかも今度はプレッシャーなしだ。PSGはパルク・デ・プランスにチャンピオンズリーグのトロフィーをもってくることを期待されていないし、メディアの注目の的にもならないだろう。エンバペのレアル・マドリー移籍は必然的であり、そうなればマスコミの目は、否が応でもサンティアゴ・ベルナベウに向けられる。

その代わり、ネイマールは興味深く発展途上のチームにおける最高の選手として、片足だけでスポットライトを浴びることができる。そしてそれこそが、気まぐれなブラジル人が、傾きつつあるように見えるキャリアを復活させるのに必要な環境であろう。

  1. PSG時代の始まり方
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    PSG時代の始まり方

    2017年、ネイマールは記録破りの移籍を果たしたが、これは本質的に身勝手な行動だった。すべてがバルセロナのネイマールのためにおぜん立てされていた。24歳のネイマールは、自分より年長で、まもなく衰えはじめるメッシとルイス・スアレスの2人とともにプレーすることとなったが、カンプ・ノウでそうだったようにすぐに文句のつけようのないスターになると思われていた。

    ネイマールが出て行った理由は数多くある。かの有名なバルセロナのレモンターダの際の彼は、PSG相手に2得点2アシストという圧巻のパフォーマンスを繰り広げた。だがメディアの扱いは小さく、不機嫌だったと言われている。PSGが提示した年収が3680万ユーロという高額だったことを指摘する皮肉屋もいるだろう。

    もっと単純に、彼は自分のチームが欲しかったのかもしれない。カンプ・ノウでは今後もメッシが唯一無二のスターでありつづけるだろうと。青とえんじのユニフォームを着なくなってから3年近く経つのに、今でもその地位を保っていることは間違いない。

    スアレスやメッシが慰留を試みたともされる中、すべての関係者の中で最もショックを受けたであろうジェラール・ピケは当時、インスタグラムに仲の良い自撮り写真を投稿し、ネイマールが残ると約束したという意味で「se queda(スペイン語で「とどまる」の意)というキャプションをつけた。ネットでは大いに喜びに沸いたが、その10日後、ネイマールはPSGと契約した。

  2. 悪循環
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    悪循環

    では、当時のパリで非常によく受け止められていたことのすべてを言ってみよう。PSGはネイマールに涙目ものの2億2200万ユーロを費やした。だが、ネイマールは世界最高の選手ではなかったし、今もまだそうではない。だが、彼はすぐにそういう選手になると誰もが思っていた。

    移籍会見ではチャンピオンズリーグ優勝が誓約された。「ビッグクラブ」とか「モチベーション」とかいう、標準的な決まり文句が使われた。その間、PSGのユニフォームは飛ぶように売れた。たちまち、巷にはネイマールの名前が入ったシャツがあふれ、ナイキは気前よくユニフォームを売りつづけ、PSGは何百万枚もの売り上げを記録した。

    だが、ピッチでの結果は惨憺たるものだった。ネイマールにつづいて、すぐに18歳のエンバペがPSGに加入した。エンバペはそのわずか3カ月前、モナコの一員としてチャンピオンズリーグに出場し、両足で得点を挙げてペップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティをノックアウトしたばかりであった。そんなエンバペの加入は、ネイマールに約束されていたスポットライトを奪うものであった。

    論争が次々に巻き起こった。エンバペとネイマールが直ちに角突き合わせたわけではないが、空気は張り詰めていた。ペナルティーキックをどちらが蹴るかで反対意見や論争が起こった。まもなく、体調がものを言うようになり、ネイマールが中足骨を骨折すると、国内三冠は達成してもチャンピオンズリーグではベスト16で敗退した。

    それ以降、事態はさらに悪化した。エンバペがスターになっていく一方、ネイマールはケガとの戦いがつづいた。PSGは悲願のチャンピオンズリーグ決勝進出を果たしたが、バイエルン・ミュンヘンに負けてしまった。その試合唯一の得点を決めたのは、PSGのアカデミー出身のキングスレイ・コマンだった。

    その後、ネイマールはまたしても負傷し、メッシは沸騰するカオスの鍋に放りこまれた。PSGはまたしてもチャンピオンズリーグで優勝できなかった。メッシはPSGを出ていきたがるようになり、ネイマールは再びケガ。メッシが出て行き、おそらくエンバペもつづくだろう。今、残っているのはネイマールだけだ。

  3. チームからの恩恵
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    チームからの恩恵

    ネイマールはPSGの古株の生き残りとなったが、少なくともサッカー・アドバイザーのルイス・カンポスがチームを構築しようとしている方法を見るにそれは吉兆と言えるだろう。ここ数年のPSGの契約については多くが語られてきた。スター・チームをつくるべく、単純にスターを大勢加入させてきた。ここ数回の移籍市場で、PSGは実際にはどう機能するのか気にすることなく、できる限りの大金を費やしてきた。右サイドバックが必要となれば、アクラフ・ハキミを史上最高額で獲得し、ゴールキーパーが足りないとなればユーロ2020の最高殊勲選手のジジ・ドンナルンマを莫大な報酬で呼んできた。

    その結果、才能ある選手が大勢いるチームとなったが、方向性を欠いていた。エリート監督が率いるスター揃いのチームが実際には悪夢を生んでしまうことが証明されたのだ。あらゆるタイプの監督が来ては去っていったが、そのことを正しく理解した監督は誰もいなかった。

    だが今、事態は変化したように見える。PSGは大盤振る舞いな支出を抑制し、絶頂期に入ったばかりの選手に賢くカネを使うようになった。低額で、コストパフォーマンスのいい選手を見つけてもいる。その最たる例がミラン・シュクリニアルだろう。トップ中のトップのセンターバックをフリーで手に入れたのだ。

    他にもいる。マジョルカでスターだったイ・ガンインがリーズナブルな金額で加入。マヌエル・ウガルテとの契約には大金を要したが、国際大会ではまだ活躍してなくとも、オールラウンドのセントラル・ミッドフィルダーである。少なくとももうひとり、背番号9をつけるだろう新加入選手がいるようだが、取りざたされているランダル・コロ・ムアニ、ドゥシャン・ヴラホヴィッチ、ヴィクター・オシムヘンといった名前はネイマールほどのスターではない。

    ネイマールにとって、こうしたPSGの移籍市場での取引は良いことでしかない。必ずしも「彼のために」チームが作られているわけではないが、カンポスはネイマールの周りに非常に効果的な選手を数多く集めている。ここ数年、PSGはバランスを欠いたチームだった。だが、今、チームのバランスをならしただけだとしても、ネイマールは恩恵を受けるだろう。

  4. 戦術的に優れた監督
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    戦術的に優れた監督

    もちろん、PSGには常に監督の問題もあった。ローラン・ブラン、カルロ・アンチェロッティ、ウナイ・エメリ、トーマス・トゥヘル、マウリシオ・ポチェッティーノ、クリストフ・ガルティエ。みな、自分の策を試したが、戦術や哲学、物腰に少しずつ違いのある監督たちだった。ただ、チャンピオンズリーグ優勝という同じ目標に関して全員が失敗した。それも、たいていはドラマチックな形で。

    つまり、次の監督がこれまでの6人ができなかったことをどうやるのか、疑問に思うのは当然というものだ。ルイス・エンリケはトゥヘルより優れた戦略家ではない。アンチェロッティ以上に人心掌握がうまいわけでもない。ポチェッティーノの時ほどワクワクするような攻撃陣をもっていないのも確かだ。さらに言うと、報道を信じるならば新監督は第4候補だったわけで、すでにその程度の信頼だというわけだ。

    だが、ルイス・エンリケにも優位なことがあるのも確かだ。第一に新監督は他人が自分のことをどう思っているか、ほとんど気にしないという評判である。スター選手を相手にすることに臆したりしないし、ビッグネームをベンチに座らせることを何とも思わない監督なのだ。スペイン代表を率いていた時もそうだった。まだ10代だったペドリとガビを、バルセロナのトップチームでブレイクした直後に代表に呼ぶなど、勇気ある戦略的決定を何度も下していたのである。

    だが、ネイマールにとっておそらく一番重要なのは、以前にもルイス・エンリケが監督だったことがあることだ。ふたりがバルサにいた時、スター選手のネイマールを守りとおしたのがエンリケだった。日常的にロナウジーニョと比較し、それまでの監督が誰もやらなかった方法でネイマールのスタンドプレーを擁護した。

    ネイマールが常に気分よくさせていなければならないサッカー選手であることは、よく知られている。とんでもない努力が必要なのは間違いない。だが、ルイス・エンリケは、うまくバランスを保って、その間ネイマールにベストのプレーをさせることに成功したことがある。もう一度それをやることは可能だろう。

  5. これ以上事態が悪くなることはない
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    これ以上事態が悪くなることはない

    先週、ネイマールはいつになく大人の行動をした。CazeTVのロングインタビューで、PSGのファンから愛されたことは一度もなかったかもしれないと認めたうえで、ファンが自分のチャントを歌ってくれようとくれまいとパリに戻ると約束した。それはもちろん、サッカー選手にとってハードルの低い話であり、事態はそれほど辛辣だという証拠かもしれない。事実、ブーイングやヤジを受け止めることは、必ずしも調和のとれた関係に向けてのステップを意味しない。

    だがサポートを切望し、ショーマンシップで名をあげ、ファンへのアピールでブランドを築いてきた選手にしては、それは驚くべき告白だった。PSGのウルトラスは数カ月前、ネイマールの家の前に集まって、出て行けと叫んでいたのだ。それが今、ネイマールが残留を誓っているのである。

    ネイマールにとっては、よくよく考えてのことだろう。実際もし今状況が破綻すれば、ネイマールに出て行けという声は大きくなるだけだろう。だがおそらく、そこにはより広い理解がある。ファンとネイマールとの関係はこれ以上悪くなりようがない。パリの地元びいきから見れば、ネイマール人気は底をついている。

    かつてはあれほど頻繁にファンから称賛を浴び、それに浸っていた選手がもうそこに愛はないと認めている。自業自得であろうとなかろうと、おそらくネイマールはパリで愛されることはもう決してないとわかっているのだろう。そしてそれがたとえ、軽蔑から単に嫌いなだけになることを意味しているとしても、何かが起こる余地はまだある。ファンから愛されようとしつこく追い求めるのをやめたことは、ネイマールがPSGに来てから一番良い行動のひとつとなるかもしれない。

  6. 重圧から解放されたネイマールに何ができるか
    (C)Getty Images

    重圧から解放されたネイマールに何ができるか

    ネイマールが最後にプレッシャーなしにプレーしたのがいつだったか、思いだすのは難しいことだろう。サントスにいた10代の頃でさえ世界最高レベルの選手の一人と呼ばれ、YouTubeの再生回数も突出。ブラジルのレジェンドたちからも称賛されていた。スポットライトの外にいることなど想像もつかないようなサッカー選手なのだ。

    そしておそらく、ネイマールに必要なのはそれだ。卓越したトリックを含むネイマールのプレーのすべてが、カメラをひきつけるようデザインされている。すべての人々に見られ、称賛され、より広く理解されるべき選手なのである。実際、統計的な数値を見るだけでは、ネイマールの物語の何も読み取ることはできないだろう。

    これまでのネイマールは責任転嫁することができた。エンバペやメッシ、チームをまとめきれなかった監督たちに。これからのネイマールはプレッシャーなしにプレーすることができるが、同時に責任を負うことになる。PSGは、ネイマールが進んでチームをけん引する限り、前進できるだろう。そんな特別な状況こそ、キャリアがついに本当の危機に瀕しているネイマールにとって、まさに必要とするものなのかもしれない。