マンチェスター・シティがプレミアリーグを支配するまで。完璧だったチームプランニング

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マンチェスター・シティがイングランドサッカー界を完全に支配するのは、舞台裏での長年の準備と冷酷な野心の賜物である。

マンチェスター・シティがこの6年間で5回のプレミアリーグ優勝を果たしたことは、1996年から2001年にかけてマンチェスター・ユナイテッドがタイトルを独占していた時以来の快挙である。ユナイテッドの覇権は、単に優れた選手と優れた監督を擁していたからというだけではない。数年ごとにオールド・トラッフォードを拡張し、新しい練習場を建設し、ユースアカデミーに投資し、革新的な商業活動を通じて世界中でブランドを成長させるなど、ピッチ外でも時代の最先端を行くクラブだった。

この10年間、シティがやってきたことは、まさにこれだった。しかし、1つだけ違うことがある。ユナイテッドがライバルに先んじていたのは、クラブがまだサッカーの新しい人気レベルに適応しようとしていた時代だ。しかし、シティはフットボールの競争がかつてないほど激しくなった時代にライバルに差をつけている。

シティはアブダビ・ユナイテッド・グループという後ろ盾を持っているが、最近のプレミアリーグの歴史の中で、裕福な後援者を持つ唯一のクラブとは言えない。彼らは、ただクラブに資金を投入し、『フットボール・マネージャー』の夢を実現させただけではない。最高の選手や監督だけでなく、最高の頭脳を使って、世界制覇のためのプロジェクトを慎重に構築してきたのである。

クラブが事実上多国籍企業である時代において、シティは世界で最も競争力のあるリーグで最も優れた経営を行っている企業である。あまりに圧倒的だからといって、彼らを毛嫌いしてはいけない。

  1. ソリアーノの夢
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    ソリアーノの夢

    2012年5月、QPR戦でセルヒオ・アグエロが94分に決めた決勝弾により、シティは初のプレミアリーグ優勝を果たしたが、現在のシティ支配の真の礎は、そのわずか数か月後、フェラン・ソリアーノをCEOに迎えたときに築かれた。ソリアーノは美容師の息子で、最初の仕事は洗剤のマーケティングだったが、バルセロナの経済副社長として5年間でブランドを大きく成長させ、2003年から2008年の間に収益を3倍にした。

    グアルディオラが監督に就任する直前にバルサを離れ、リーグ3連覇とチャンピオンズリーグ2度の優勝を逃したが、そのビジョンは業界内で高く評価された。2006年、バークベック・カレッジでの講演でソリアーノは、クラブは「ディズニーのような多国籍企業と同じ」と考え、グローバル・フランチャイズになるべきだと述べた。彼は、ウルグアイ、アメリカ、インド、日本、オーストラリア、フランス、ベルギー、スペイン、ブラジルなど、世界中にクラブを持つシティ・フットボール・グループの広大なネットワークを構築し、シティでその夢を実現することができた。

    このようなクラブネットワークを構築するためのアイデアは「グローカリゼーション」と呼ばれ、グローバルな製品をローカルな市場に適応させるというものだ。各クラブが地元でより多くのサポーターを獲得する一方で、マンチェスター・シティのブランド認知度も高まり、サポーターのグローバルなベースが増える。商業的な収入だけでなく、シティのクラブネットワークは、移籍という大きな取引も可能にしている。

    ソリアーノの指導の下、シティは世界のサッカー界で最も収入の多いクラブとなり、デトロイト・マネー・リーグによれば、7億1300万ユーロを稼ぎ出している。さらに、『Brand Finance』では、レアル・マドリーに次いで世界で2番目に価値のあるクラブとして、推定15億3900万ドルの価値があると評価した。

  2. ペップを気長に待つ
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    ペップを気長に待つ

    ソリアーノはまず、バルセロナ時代の同僚で、ロナウジーニョ、デコ、ティエリ・アンリなどの移籍を実現させたチキ・ベギリスタンをシティのスポーツディレクターとして起用した。

    そして彼らは、グアルディオラがカンプ・ノウを去った後、早くも2012年にはシティへ招聘しようとしていた。

    しかし、グアルディオラは2013年に新天地としてバイエルン・ミュンヘンを選択。それでも、シティは動揺することなく、バイエルンでの滞在を終えるまで待つことを約束した。

    トップレベルのクラブにとって、第一候補の監督を迎えるのに、3年という時間は長い。

    シティがグアルディオラに固執した結果、マヌエル・ペジェグリーニの下でチームは停滞し、チリ人監督3年目のシーズンではレスター・シティがタイトルを獲得する中、4位に終わった。しかし、グアルディオラのシティでの持続的な成功を見れば、彼を待つ価値があったことは明らかだ。バルセロナやバイエルンでの成功のように、グアルディオラは3年連続でリーグタイトルを獲得し、彼のキャリアで12個目のタイトルを獲得した。

    グアルディオラはまた、偽サイドバックやスイーパーキーパーなど、ヨーロッパで真似されるような戦術的な革新も行い、中心選手であるケヴィン・デ・ブライネに対しても厳しい態度で接することでチームのマンネリを抑えている。

  3. パニックバイをしない移籍戦略
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    パニックバイをしない移籍戦略

    チェルシーが、どこでプレーするかは考えずに世界中の有望な選手を片っ端から獲得しようとし、ユナイテッドが毎夏パニック的な買い物を繰り返している一方で、シティには卓越したリクルートプランがある。

    グアルディオラが就任するとすぐに、シティは監督が望むようなプレーをさせるために必要なチームを作り始めた。その最初の一手が、イングランド代表のNo.1GKであり、2度のタイトル獲得に貢献したファンの人気者、ジョー・ハートと別れるすることであった。この決断はイングランドサッカー界に衝撃を与えたが、ハートは足元でボールを扱う能力に限界があったため、新監督の下でプレーするには不適格だった。

    シティは、悪夢のようなデビューシーズンを送ったクラウディオ・ブラボを獲得し、最初のGKとの契約を誤ったが、その判断自体は正しく、2017年からGKを務めるエデルソンは、グアルディオラの下で5回のタイトル獲得に大きく貢献した。

    その夏、シティがダニーロ、バンジャミン・メンディ、カイル・ウォーカーという3人のサイドバックにさらに1億3000万ポンドを費やしたときは、多くの人々が眉をひそめたものである。しかし、トレント・アレクサンダー=アーノルドとアンディ・ロバートソンによるリヴァプールの成功に見られるように、サイドバックは最近のサッカー界で最も重要なポジションの1つであることが証明されている。

    シティは常に数手先を見据え、チームのどの部分に注意を払う必要があるかを分析している。2020年はルベン・ディアスを獲得し、彼は最大のリーダーであり、最も安定したパフォーマーになった。昨年は世界最高のストライカーであるアーリング・ハーランドと、わずか1400万ポンドでフリアン・アルバレスという才能あふれるバックアッパーを獲得。それがどのような結果を導いたかは見てのとおりだ。

  4. パレスやリーズより低い純費用
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    パレスやリーズより低い純費用

    シティは長期的なチームプランニングに成功し、昨夏にハーランドとカルヴィン・フィリップスを獲得したにもかかわらず、移籍金で利益を上げることができた。ラヒーム・スターリング、オレクサンドル・ジンチェンコ、ガブリエウ・ジェズスの売却だけで1億2400万ポンドを受け取り、さらにペドロ・ポロを含むトップチームでプレーしたことのない4人の選手を移籍させて1500万ポンドを稼いだ。

    放出で差し引いた移籍金の支出は830万ポンド。これはプレミアリーグで4番目に低く、クリスタル・パレスやリーズよりも低く、ブライトン、レスター・シティ、エヴァートンよりも高いだけだ。チェルシーの4億8000万ポンド、マンチェスター・ユナイテッドの2億300万ポンド、ニューカッスルの1億6000万ポンドとは対照的である。シティは、その莫大な財産をつぎ込んでまで選手を獲得する必要がないほど経営がうまくいっており、自立しているのだ。

    また、彼らのサラリー費用はリーグで3番目。マンチェスター・ユナイテッド(2億1100万ポンド)、チェルシー(2億1200万ポンド)に次いで、シティの人件費は今季1億8200万ポンドと言われている。

  5. インフラへの持続的な投資
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    インフラへの持続的な投資

    シティは、人材確保に多額の資金を投じただけではない。彼らは早くから、世界一のチームになるためにはユース育成がいかに重要かを認識し、2億ポンドを投じてシティ・フットボール・アカデミー(CFA)を建設した。シティの旧練習場はマンチェスター・ユナイテッドの近くにあったが、2014年に完成した現在の本拠地は、文字通りエティハド・スタジアムの隣にあり、クラブにあらゆる種類の物流・戦略上の利点をもたらしている。

    この投資は、トップチームの選手と移籍金の両面で見事に報われた。タイトルを獲得したフィル・フォーデン、コール・パーマー、リコ・ルイスはすべてCFAの門をくぐり、ロメオ・ラヴィア、ジェイドン・サンチョ、ブラヒム・ディアスなどを他クラブに売却し、多額の利益を得ることに成功した。

    シティはまた、2010年にエティハド・スタジアムと改名されたグラウンドを着実に拡張してきた。2014年には収容人数を48,000人から53,000人に増やし、先月には収容人数を60,000人にする3億ポンドの改修計画を提出した。また、トッテナム・ホットスパー・スタジアムやサンティアゴ・ベルナベウの改修に続き、ホテル、スカイバー、スタジアムのルーフウォーク体験の建設も計画されており、より多くの収益機会が期待されている。

    クラブの最新の決算では、昨シーズンの座席占有率は99%で、プレミアリーグの注目試合やレアル・マドリー、バイエルン・ミュンヘンとのチャンピオンズリーグの試合はすべて完売しているため、チケット需要の増加に対応するためにこの拡張が必要とされている。

  6. 規則違反も選手たちに罪はない
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    規則違反も選手たちに罪はない

    シティは、プレミアリーグの財務規則違反の有無に関する調査がどのように終わるか分からないまま、このタイトルを祝うだろう。結果はあと1年か2年、もしかしたらもっと先までわからないかもしれない。シティは将来のシーズンで勝ち点を減点されるかもしれないし、タイトルを剥奪されるかもしれないし、リーグから除名されるかもしれない。

    アブダビ・ユナイテッド・グループがクラブを買収した翌年の2009年から、シティがグアルディオラの下で初のタイトルを獲得した2018年の間に、115件のルール違反を行ったとして告発されている。そのため、多くのライバルファンや識者の目には、彼らの成功はすでに汚されていると映っているだろう。

    疑惑は深刻で、もしシティが有罪になれば、相応の罰を受けるべきだ。しかし、たとえそうだとしても、グアルディオラがフットボールを新たな高みへと導いたという事実を損なうことがあってはならない。

    このタイトルを獲得した選手たちが、目を見張るようなフットボールを見せ、ライバルを圧倒したことには、何の罪もない。